第12章 Autumn編 C
それでも私には断る理由がない。快く受ければ、大きな時計塔の前で後で集まる約束をする。勿論嫌な予感が胸をよぎるが、断ってもいいことはなさそうだ。
足早に一度部屋に戻り、ダンスで流した汗を流す。暖かいお湯が、身体を満たし彼女と向き合うことへの恐怖心からか、足が少し震えているのを感じた。
「怖い、うん、怖い。でも……黙っていても、きっとあの子は私になんとか痛い目に遭わせようとしてくるんだろうなぁ……」
それにしても、美風さんが壱原さんを先に誘っていたことには驚いた。勿論私はそんなこと聞かされていなかったし、考えたことすらない事態だ。彼女の本当の気持ちを、その悔しさを、私はけして共有することは出来ない。
美風さんの隣にいたいなら、それを望むなら、やはり彼女との衝突は避けられそうにない。
「はぁ……」
蛇口をひねり、お湯を止めた。この後に待っていることなど、一々考えたところで私は対処しきれないだろう。ならば彼女の気が済むまで、とことん付き合う。
タオルドライをしっかりし、ドライヤーで髪を弄ぶ。耳元に届くのはドライヤーの煩い音だけ。この音だけ聞き続けることが出来れば、この目まぐるしい日々も時を止めるのだろうか。