第10章 Autumn編 A
「ハジメマシテ? とでも言うべきなのかな。寿さんのパートナー、壱原ユイですっ♪ 宜しくお願い……すると思う?」
「……私、壱原さんに、何か……した?」
「したよ、凄くした。だって美風さんのパートナーになる予定だったのはこのあたしだもん! したに決まってるじゃん!! あたしはね、元々最初に美風さんに声をかけてもらってこれに参加することを決めたの。なのに、数日経ってからもっといい子に出会ったからって断られたんだよ!? 声をかけてくれたのは彼なのに……!」
「そ、そんなことが……?」
「寿さんは優しくてね、そんなあたしをパートナーにしてくれたんだ。本当に嬉しかった……だってつまりは、美風さんのパートナーに意地汚く居座ってる女に復讐出来るってことでしょう?」
一瞬、全てがスローモーションに見えた。彼女の両手が私の肩を掴んで、保健室のベッドを背に押し倒される。細くて綺麗な指が、私の喉元を捉え、ぐっと締め上げた。
「……か……っ」
「ずっとずっとこの時を待っていたの、秋にアイドルの人たちがこぞって仕事三昧でプリンセス候補の人たちから離れるってのを知ってこれがチャンスだって思った。あんた、今までどうして自分が誰からも苛められなかった知ってる?」
「……っ、し……らな……」
「美風さんが手を回してくれてたんだよ。優しいよね、ほんと優しい。でもそれも終わり! あんたを助けてくれる人は誰もいない、いないんだよ!! だからこれからゆっくり教えてあげるね? あんたがどれだけ必要のない存在か、美風さんに相応しくないか」
「……っ」
「誰も言わないみたいだから、代わりにあたしが言ってあげるね? あんたみたいなブスを本気で美風さんが気に入るわけないじゃんばーか!!! あははっ!」
指が離れる、酸素が喉元を通り勢いよく呼吸したせいで、咳こんでしまう。苦しい、苦しい、苦しい。必死に呼吸する姿を見て、壱原さんは喉を鳴らし笑う。
守られていたんだ、いつも。私は彼の優しさに甘えているだけじゃなく、彼の背に守られ続けていただけなんだ。それなのに私は、なりたい自分もイメージできず毎日をただ少しずつ食い潰して……っ。