第8章 Summer編 B
「押し倒されるのって、初めて……?」
「え、あ……っ」
彼の冷たい唇が、私の首筋に触れた気がした。
こんな彼を……私は、知らない。
「バニラの香りがする……天音。これは、誰から移された香りなのかな?」
「み……か、ぜ……さ」
「ちゃんと答えられないなら、僕が答え合わせしてあげようか?」
「や、やめてくださ……い。こんな、悪ふざけ……」
「君は、誰のパートナー?」
「……美風さんの、パートナー……です」
「……今はそれでいいよ」
ゆっくりと彼は離れて、私を起こして隣へ座った。私は驚きのあまり、視界が滲むのを感じて咄嗟に下を向いた。
どうしよう、こんな姿……見られたくない。
「天音……」
先程とは違う、優しい手が私を抱き寄せるのを感じた。カミュさんとは違う、石鹸の香りがほのかに香って少し安心して、また視界が滲んだ。
「ごめん、泣かないで」
ゆっくりと頭を撫でられ、涙が頬を伝う頃、ようやく自分が泣いていることを知る。
怖かった……? ううん、違う。