第1章 お姫様にはまだ早い
「あのワンピース、気に入ってるの?」
「え? な、何がですか」
「さっき、店を慌てて出て行ったでしょ」
「……っ」
見られていたんだ。変な人だとでも思っただろうか、それかブスが何してんだよとわざわざ笑いにきたのだろうか。
「可愛いよね、あのワンピース。まさに女の子って感じで」
「だから……なんだっていうんですか」
「来て」
「ちょっ、ちょっと!!?」
手を引かれ、あろうことか再び先程の店に連れ戻される。異様な光景に、人の視線が一気に先程と以上にこちらへと集まる。ひそひそと声を聞こえてくる。それは私が今まで聞いてきたような言葉ばかりで、なんでこんな目立つようなことをしなくちゃいけないんだとますます嫌な気持ちになる。
「えっと、このワンピースだったね」
「……一体、何のつもりなんですか。離して下さい」
「やだ。店員さん、鏡台みたいなのある?」
「フィッティングルームにセットでありますが……いかがいたしましたか?」
「使わせてもらいたいんだけど、いいかな?」
「ど、どうぞ!」
突然の少年の申し出に、店員さんは困惑するが彼の100万ボルトのスマイルが決まったことで、どうぞどうぞとフィッティングルームへと案内される。
「あの……!」
「はい、そこの椅子に座って。何してるの早く」
「本当に何なんですか!?」
「文句は後で。はい、座る」
「……」
何の説明もなく、半ば無理矢理座らされる。この人は一体何がしたいのだろうか、しっかりと拒絶することが出来ない自分の弱さが情けない。