第6章 Spring編 D
公園、映画館、ショッピング、プラネタリウム、遊園地、水族館、舞台鑑賞、図書館。様々なデートスポットがあることを解説しながらも、美風さんはそのどれでもなく電車で海へと向かった。
何故海なのかと聞いても、彼は一言も答えてはくれなかった。
同じようなデートをしていると思われるカップルを、横目で観察してみる。楽しそうで、幸せそうで、両思いなんだろうと……それだけで、この二人の世界は私達とは違って見えた。同じ世界で息をしているはずなのに、見えない境界線が敷かれて切り取られているような。
恋人って、そういうものなの?
「天音は海に行くのは初めて?」
「いえ、家族と小さい時に行きました。その一度きりだけですね……」
「そうなんだ。ハワイとかに行くと、もっと透き通って綺麗な海を見ることが出来るらしいよ。あ、沖縄もいいらしい」
「沖縄は修学旅行に一度、行ったことがあります。でもその時は丁度台風で、結局海には一度もいけませんでした」
「何その残念修学旅行」
「ゴーヤチャンプルー食べましたよ!」
「うん、想像できる」
他愛もない話。こんな会話をしたのは、実は初めてじゃないだろうか?