第5章 Spring編 C
「遅い、一分二秒約束の時間を過ぎてるよ」
「こ、細かい!!!」
「天音。デートっていうのはね、寧ろ約束の時間より三十分は早く来ておくものなんだよ?」
「さっ、三十分……? 授業では五分くらいって聞いたんですけど!?」
「何甘いこと言ってんの。仕方ないな……今日は僕が、天音にデートの極意を伝授してあげる」
「お、お願いします……!」
なんだかよくわからないけど、美風さんがデートの極意とやらを教えてくれるそうなので、素直に教えを乞うことにする。
「じゃあ、まずデートの基本。手を繋ぐよ」
「あ、はいっ」
しっかりと彼と手を繋ぐと、美風さんが思い出したように「あっ」と声を漏らした。
「どうかしましたか?」
「そのワンピース、凄く似合ってる。可愛いよ、天音」
「っ……!!」
ぼっと音が出そうな程、私の顔は一気に火照ってしまう。恥ずかしくて俯くと、冷たい美風さんの指先が私の頬へと滑り落ちる。
「でもメイクは合格とは言えないかな」
「……ですよね」
「まあ、そのためにこれを持ってきたんだけどね」
美風さんは、手に持っていた小さいポーチを持ち上げ得意げに笑む。
「それは……?」
「メイク道具。とある筋から借りてきた」
「(誰に借りてきたんだろう……)」
「ちょっとだけベンチに座ってもらえる?」
「わかりました」
近くのベンチに腰掛けると、美風さんは手慣れた手つきで道具を取り出し目元のメイクを施していく。もしかして誰かによくやっていたりするのかな?