第1章 お姫様にはまだ早い
暗い部屋、ほんのり漏れる灯りはパソコンの光。
「えへへ、やっぱり私にはユートだけだよぉ」
私の名前は星織天音。晴れて高校二年になったのですが、去年の騒動をきっかけにあれから学校には通えておらず、こうして所謂乙女ゲーをしながら日々を過ごしている。両親はあまりに頑なに登校を拒否する私に、お手上げ状態なのか今ではすっかり諦めてくれた。
私の心のオアシスは、今ではもう乙女ゲー以外にありえない。三次元? 論外ですね。
三次元なんて最低なことばかりだ。三次元の男なんて……。
「天音! ちょっと買い物に行ってきてくれない?」
「え――……めんどくさい」
「あんたいっつも引きこもってばかりでしょ! たまにはお母さんの手伝いしなさいよね」
「……わかったわよ、行けばいいんでしょ! 行けば!」
うじうじ考えるのはあの日でやめたんだ。私は二次元に生きる! 二次元なら私のことをわかってくれるし、私のことだけを好きでいてくれるんだから。今更三次元に目を向ける必要なんてない。
お金を受け取って、適当に着替えて外へと出る。久しぶりの下界は本当に気分が悪い……すれ違う人たちが全員、私の姿を見てはくすくすと笑っているように思えて仕方ない。確かにお洒落気のない洋服を着て、外に出ているから笑われても仕方ないかもしれないけど。
そもそも、どうお洒落をすればいいのかさえわからないのに……どう変わればいいっていうのよ。