第4章 Spring編 B
歌のレッスンで習った楽譜を手に、次の講義へと急いでいた。
「おい! 楽譜落ちたぞ」
「えっ、ほ、本当ですか?」
慌てて立ち止まれば、ばらばらと後方へ楽譜が落下していく。なんてことだ! 声をかけてくれた人が、一緒に拾い集めてくれる。何をやってるんだろうなぁと思いながら、徐に楽譜を眺めた。
「あんた、もしかして藍のパートナー?」
「そうですけど……貴方は?」
「俺は来栖翔! 藍とは寮で同室なんだ。へぇ……藍とペアか。大変じゃないか?」
「そうでもないです。美風さんは、私にきっかけをくれた人ですから……こう、私も頑張らなくちゃ! みたいな」
「藍に何かしてもらったの?」
「してもらったというか……変わるきっかけをくれたというか。私、自分に自信がなくて……でもどう変わっていけばいいかわからなくて。変わりたいって思うばかりで」
「すっげぇわかるぜその気持ち! 俺も早乙女学園に入った時はそんな感じだったなぁ……理想の自分像はあるんだけど、なかなかそこに辿り着けないっていうか。ははっ、俺とあんた少し似てるかもな」
「ふふっ、来栖さんは面白い人ですね」
来栖さんと話していると、なんだか少しだけ心が穏やかになっていく。彼の明るさのせいだろうか?
「確か……星織、だっけ? 藍ってさ、どんな人がパートナー? って聞くと、抽象的なことしか言わないんだぜ。てっきりそんなに紹介したくないほど気に入ってるのかと」
「え!? たぶん違うと思います! その、紹介したくないほどださいから……ですよ」
「そうか? 洋服とかさ、色々お洒落してみれば変わるよ! 内面変えるのって大変だしさ、まずは見た目から変わっていけば?」
「見た目から……」
「そうそう! じゃあ、合宿頑張れよ!」
来栖さんは笑顔で手を振りながら、立ち去ってしまった。アイドルでもいろんな人がいるんだなぁ……。元気で可愛らしい人だ。
予鈴の音が鳴り響き、再び教室に向かい走り出した。