第22章 人魚の夢
「藍くん」
「なぁに……?」
「今日、凄く楽しい。水族館なんて初めてだった! 家族とも行ったことないんだよ、実は」
「へぇ……。僕は、二度目かな」
「そうなの?」
「僕の記憶なのか、わからないけど」
薄らと開けた瞳は、どこか朧げだった。遠くを見ているみたいで、どう声をかければいいかわからない。
「天音は……どうして変わりたいって思った?」
それは、以前彼が私に尋ねてきた言葉だった。あの時の私は、答えることが出来なくて、彼に酷いことを言ったような気がする。だけど、今なら全てを答えられるような気もする。
「昔、好きだった人がいたの。でも、駄目だったんだ……ブスが何言ってんだって、告白して笑われちゃった」
いつかは彼が知ることだった。それが、今なのかもしれない。私は、カミュに話したままを、また藍くんへと話す。彼は、静かに聞き入りながら時々、握った手の力をぎゅっと強める。
あの日々を、私はきっと一生忘れないのかもしれない。
それ以上に、私はこのぬくもりを忘れないだろう。
全てを話し終わると、小さく藍くんが呟いた。