第22章 人魚の夢
藍くんが連れて行ってくれたのは、静かな水族館だった。冬に水族館? と思ったけれど、少しだけ彼らしいとも思った。彼は海とか、水に関するものがとてもよく似合うから。
「藍くんが人魚姫だったら、私は王子様になって必ず迎えに行くね」
「はあ? 逆でしょ。天音が人魚姫で、僕が王子様。まぁ、泡になって消えないように精々頑張ってね」
「ひ、酷いっ!」
「天音は、人魚姫よりもシンデレラが一番しっくり来る」
「……うん、確かに」
「このクラゲ不細工」
「クラゲって意外と泳いでる姿は可愛いね」
「えっ……冗談」
二人して館内を歩き回る。クラゲに熱帯魚やサメにイルカ。360度水槽に囲まれたトンネルは一番見所がある。優雅に泳ぐ魚を眺めて、藍くんの方へと視線を向けた。子供のようにはしゃぐ彼は、年相応に見えた。
「ねぇねぇ、藍くん! 次あれ行こう、あれ」
「魚は逃げないんだから、もっとゆっくり行こうよ」
「ラッコ可愛い!!」
「はいはい……」
私まで、幼い子供のようにはしゃいでしまう。何もかも、全てを忘れて行くかのように、私と彼は飽きるまで水族館を堪能した。