第22章 人魚の夢
「ありゃ、藍くんはまだか」
久しぶりに訪れるあの場所、人だかりもその街の空気も雰囲気でさえも、変わってはいないように思える。もし何か変わっているとするならば、それは私自身だと思う。
「天音っ」
「あっ……」
しっかりと眼鏡をかけ、帽子を深く被った男性。見間違えるはずがない、彼だ。
以前出会った時は、ほとんど変装をしていなかった気がするけど、それだけ今は前と違ってもっと人気が出たということなのだろうか。うん、寂しいけどでもそれは嬉しいこと! 藍くんにとって、仕事は大事なものだから。
「何考えてるの? 僕が来たんだから、考え事は中止ね」
「ふふっ、大丈夫だよ。藍くんと出会った頃のことを考えていただけだから」
「そういえば、ここで出会ったんだよね」
今では懐かしい思い出の中。「店の中、入る?」と聞かれたがそれはやめておくことにした。折角のクリスマスイヴ、思い出に浸るのはまた今度で。
「じゃあ、今日は僕にエスコートさせてね」
「はい、お願いします」
「ではお手をどうぞ、レディ」
「エスコート、お願いしましたっ」
「任せてよ」
自信満々に笑みを見せる藍くん。手を取れば、ぐっと近くなる距離。こうして隣に並んで歩けることが、今は何よりも嬉しい。
すれ違う人たちからは、どう映っているのだろうか。ちゃんと、恋人に見えているだろうか?