第21章 この恋心不良品につき 番外編
「大きな屋敷ですね……」
「貴方こそ、綺麗な装いですわね。どこかの貴族かしら?」
「シルクパレスの伯爵、といえばある程度わかって頂けますか」
「本当に伯爵でしたのね」
客間に案内し、ふかふかのソファに腰をかける。メイドに紅茶とお菓子を持ってこさせ、扉は固く閉ざされた。その瞬間を、まるで待っていたかのようだ、彼は。
「俺の要件はただ一つ。貴様にうたのプリンセス様という、一種のイベントごとに俺のペアとして参加してもらおう」
「……はい?」
突然口調を変えた彼に、わたくしは人生で数少ない驚愕の表情を彼に見せてしまった。おかしい、テレビでの彼は執事キャラとして有名でただのキャラかと思えば会った時からそのままで、ならばあれは素なのかと思えば、本当にただのキャラだったなんて。
「そんな態度、わたくしに取っていいんですの? ファンにばらしますわよ? 貴方の態度を」
「それは叶わぬ夢だ。何故なら、俺のペアになるのだから許されるわけがないからだ。自分が優位な立場にいるのだと錯覚などしない方がいい。貴様にとって、俺の提案は願ってもないことだぞ」
「どういうことですの……」
「これで優勝出来れば、貴様が長年望んでいた芸能界への第一歩になるだろう。なんせ、優勝者はなんでも一つ願いを叶えてもらえるからな。最も、願うのは俺達アイドル側だがな。しかしお前が大人しく俺のペアになるというのなら、叶えてやらんこともないぞ」
「何様のつもりですの!? 不躾にもほどがありますわ!!」
「なら、これからもちまちまと力だけ蓄え続けて、いつか来るのか来ないのかわからないチャンスを待つか? お前がプリンセスだと、プリンスが手を引いてスポットライトの下へ連れ出してくれるのを待つか? 少なくとも、今お前の目の前には芸能界への道を自ら掴むための最短チケットがあるのだぞ」
「……そんなことをして、貴方にどんな得があるというんですの」
この男に無利益の駆け引きを、わたくしのような小娘に持ち出すはずがないはずですもの。