第21章 この恋心不良品につき 番外編
「レディは、あの子と仲良かったりするの?」
「あの子、とは?」
「美風藍のパートナー」
「……。そうですわね、友人……と言えるかわかりませんが、仲は悪くないと思いますわ」
「そっか。てことは、壱原ユイちゃんとも、何があったか知っていたりする?」
「壱原ユイ……そういえば、星織さんが入院してすぐにここから追い出されましたわね。美風さんと、カミュの手で。とても酷い追い出しだったと聞きますわよ」
詳しいことまでは知らない。けれど、いくら自分が選ばれなかったからと復讐だなんて、壱原ユイも愚かな女ですわね。わたくしなら、選ばれなかったことを嘆くのではなく見返してやると強く思いますのに。
ふと、頬に暖かなぬくもりが下りてきて、驚いて顔を上げた。
「レディの名は?」
「……愛佳、ですわ」
「そっか、愛佳ちゃんか。可愛い名前だね」
「神宮寺さんのような、綺麗な名前には負けますわ」
「お世辞も上手なようだ。バロンの居場所がわからないなら仕方ない……俺はこれで失礼するよ」
「バロン……?」
「カミュのことだよ」
「ああ……。彼にもし会ったら貴方が探していたことを伝えておきますわ」
「是非そうして欲しいな。それじゃあね」
神宮寺さんはひらひらと手を振って、練習室を出て行った。私は練習室の窓を開けて、見下ろした。ここは一階、壁を背にして草木の上にも関わらずお構いなしに座り込み、カミュが静かに本を読んでいると知りながら。