第18章 Winter編 B
「天音は意地でも、風邪引いちゃ駄目」
それでも彼は、頑なにジャケットを受け取ろうとしないので、仕方なくジャケットを肩にかけた。
「どうしたの? 寝てた?」
「ううん……少しだけ、考え事」
もしかしたら、目が腫れてしまって泣いていることに気付かれているかもしれない。藍くんの視線から逃げるように、窓際へと移動する。外から見える景色は、自然のものばかりでこれで住宅街や道路でも映れば、実家の自室と勘違いしてしまいそうだ。
「春歌から聞いたよ、例のブランドのドレスの鍵、貰ったんでしょ?」
「え……あ、うん。一体どう使うのか、わからないんだけど」
「大丈夫。使い方なら、僕が知ってる。イヴの日、一緒にそのブランドへ行こう」
「ほんと? よかった……折角貰ったのに、当日着ることが出来なかったら七海さんに悪いから」
「きっと、あのドレスは天音にこそ相応しいよ」
藍くんも隣へと並び、同じく窓の外を眺めた。たったこれだけのことなのに、まるで同じ世界を一緒に眺めているような気分になる。
横顔が綺麗で、思わず見惚れてしまう。ああそうか、彼はやっぱり本物のアイドルなんだと実感する。私には遠すぎて、本当なら手も届かない……こうして隣に並ぶことも出来ない存在。
どんなに想って、隣にいたいと望んでも、それはただの高望みなのかもしれない。