第18章 Winter編 B
「わかっていた……とまでは言わぬ。それでも、天音に選んでほしいと、そう思う心に嘘偽りはない。悔しいのには、変わらないがな」
「……っ」
「ごめんなさい、などと間抜けなことを言うなよ? 跪かせるぞ」
「……怖いです、カミュ」
「ふんっ。胸を張って堂々としていろ、別に何一つ俺に後ろめたい気持ちを抱く必要などない。お前の心は、既に決まっているのだろう?」
彼は、見透かした上で、それでも優しく微笑んでくれる。私は言葉にならないまま、ただ頷くことでしか応えることが出来ずにいた。カミュは私の手を取り、ぬくもりを確かめるように、ぎゅっと握る。
伝わる冷たさは、きっと藍くんの方がもっとずっと冷たくて。この人の手は、藍くんより熱を帯びていて……そして、今は微かに震えていた。
「私を、好きだと言ってくれて……ありがとう、ございますっ。とても、嬉しくて、幸せで……初めてぶつけられた想いに、正直戸惑って……それでも、いつも傍にいてくれて、優しくて……なのに私は何も、何一つ返せなくて……っ」
「煩い、黙れ。抱きしめたく……なるだろう」
もう彼は、私を抱きしめたりしない。その胸に飛び込むことは許されない。ただ私は一人で涙を流す、拭われることのない涙を。
彼の唯一最後の優しさは、この手を離さないでいてくれることだろう。
涙が止まり始めると、ゆっくり手は離れていく。そうだ、これが私のした選択の結果なのだから。