第16章 滴る果実は囚われる
「変わらない、です」
「え……?」
「私、やっぱり変わらないんです。カミュの気持ちに、どう答えていいか正直まだちゃんとわかってません。好きだなんて……そう言われたのは、初めてですから」
自ら手を伸ばす、両手を。思い切って、彼を抱きしめる。思っていたより、がっちりとしていた体に、どきっとしてしまう。
「っ……、ちょっと、天音!?」
「確かに、あの時助けてくれたのはカミュです。でも……春からずっと、全てから守ってきてくれたのは……美風さんです」
「僕は……別に、何も」
「私が貴方のパートナーであること、それは周りから見れば異質で、やっぱり不釣り合いで。でもそう言われることが私は悔しくて仕方なくて、どうにかして貴方の隣に相応しい女の子になりたくて」
顔を上げる、彼の驚いた顔を見た。なんて貴重なんだろう、こんなにもこの人は表情を変えて、私を見つめていてくれる。
「私も、この気持ちに名前をつけることが出来ません。でもわかることがあります。私は……美風さんのために変わりたいですっ! やっと見つけたんです、私が心から変わりたいと思える理由。貴方の隣に、胸を張って立っていられるような、女の子になりたいんです!! 他の誰かが美風さんの隣になんて、嫌です! 私が、私が隣にいたいんです!」
美風さんが海外へと仕事に出かけ、初めて大きな距離を感じたあの日から、受けた沢山の悪意の中でそれでも思い続けた。美風さんの、隣にいてもいい人に、なりたいって。
「……っ、天音。お願い、今度こそ……僕が君を守るから。何処にも、行かないで……」
小さな願いを集めて、かき集めて、拾い集めて。
お互いに名前の知らない感情を抱えて、それでも思う。
”離れたくない”と。