第16章 滴る果実は囚われる
「天音、僕はね。誰でもよかったはずだったんだ、ペアになる相手の女の子は」
「え……?」
「だから知っての通り、偶然出会ったユイに声をかけたんだ。だけど君だけは違った。確かに思ったんだ……"彼女となら"って」
美風さんの綺麗な横顔が、私の横目にしっかりと映り込む。海を見つめたまま、一向に視線をこちらに向ける様子はない。それでもいい。私は、彼の言葉に耳を傾けていた。
「それはほんの……小さな気まぐれに過ぎなかったかもしれない。見たことのないほどのださい女の子、ただ強烈だっただけかもしれない。でも初めてだった……こんなにも、君を笑顔にしたいと思えることが。誰かに、そんな感情を抱くこと自体が」
「美風さん……」
「この気持ちに、今は名前をつけることが出来ない。だからね、僕は今とてもつまらないことを言ってるかもしれない。それでも聞いてほしい」
彼がこちらを向く、綺麗な指で、手で、私の頬を撫でては痛々しく笑う姿が、怖くて苦しくて。どうしようもなくて。
「君が傷つけられて、入院したって聞いた時……物凄く怖かった……! 僕の配慮が足りなかったせいだとか、もっと根本的な部分をしっかりと潰しておかないといけなかったんだとか、柄にもなく後悔した。……――あの日、僕は君が入院したその日に病室を、訪れた」
「……え?」
どういうこと? だって、そんな……。