第16章 滴る果実は囚われる
「天音、可愛いね。その洋服も、メイクも……自分で?」
「は、はいっ! 全部頑張って自分でやったんですよっ」
「そう……凄いね。やれば出来るじゃん」
「いつまでも、美風さんにやってもらってばかりではいけませんからね」
「まぁ、僕は君に怪我がなかった方が一番嬉しかったんだけどなぁ」
「それは……、まぁ私もですけど」
「ごめんね」
美風さんの表情は、わからない。
「天音。学園に戻る前に、以前デートで行った海に寄ってもいい?」
「私は構いませんが……美風さんはいいんですか?」
「うん、大丈夫」
久しぶりだからか、少しだけ距離が遠く感じる。この繋いだ手も、こんなにも近いのに。どうして私にそう思わせるのか、それは彼の表情にあるせいかもしれない。読み取れない心、近付けない何か。
肌で感じる、確かな彼との距離。
どうしようもなく、怖くなった。
見たことある景色、波の音。海の香り。あの場所へ、私はもう一度やってくる。あの日見た景色と少し違うのは、太陽が真上にあるせいかもしれない。