第1章 シンプル
ある日の帰り道。
駅でいつも別れる場所で山本くんが私に尋ねる。
「須藤さん、付き合ってる人とか…いないよね?」
「いないよ! いたら…こんな毎日山本くんと一緒に帰ったりしてたらヤバイかも…」
私は笑いながら答える。山本くんもちょっと笑って頷く。
「そうだよね。じゃあ…好きな人っている?」
「……」
私は返答に詰まる。彼が質問を重ねてくる。
「いるんだね…。そいつ俺より頭いい?」
いや、少なくとも1年では山本くんが一番頭いいし…ていうか…。
「わたしが好きなのは…」
どうしよう。私の今のたった一人の友達だから、ずっと意識しないようにしてたけど…。関係が壊れてしまうのが怖くて。でも…。
「わたし…山本くんのことが好き…かも…」
私は思い切って自分の気持ちを伝える。
「…本当?」
ちょっと間を置いて彼が聞き返す。
超恥ずかしい私は声を出さないでただ頷く。
「ちょっと来て」
「えっ」
山本くんが急に私の手をギュッと握って引っ張る。
駅の反対側の出口に向かって歩いてる?
反対側の少しひと気が少ない所で立ち止まる。
手を握ったまま向かい合う。
「さやかちゃん、俺も君のことが好きだよ」
え、いきなり名前呼び? ていうか好き? えっ?
彼が私の頬に手を添える。
「両想いだから…いいよね?」
返事をする間も無く、彼は私の唇に唇をつける。
……キス……した……。
えっと…頭の中が整理出来ない…えっと…。
唇を離して彼がちょっと微笑む。
「明日は家においで。家で勉強しよう。ここから近いから」
ぼんやりしながら私はとりあえず頷く。
「じゃあまた明日。気をつけて帰ってね」
握った手をそっと離して彼が手を振る。ニコニコ笑って。
「うん…また明日…」
私もなんとか返事して手を振る。
…
電車に乗って、座席に座って…もう一度整理してみる。
告白したら、俺も好きって言われて、キスした…。
あれ? なんか結構シンプル?
すごくいろいろあった気がしたけど…。
山本くんて意外と…なんていうか…あんな人だったんだ。
明日は家においでって言われたけど…。
大丈夫かな?