第1章 シンプル
全然わからない…やっぱもうダメだ…。
私は数学のプリントが乗った机に突っぷす。
放課後の補習授業。教室には私一人。
理由は私がバカだから。
…
一学期は楽しかった。
もともとそんなに勉強が出来ない私が無理して入った高校だけど、バスケ部に入って、友達もいっぱい出来て…高校生活って楽しいなって思ってた。
でも一学期の成績表に赤点が付いて、バスケ部を退部させられてしまった。
自分なりに夏休み勉強したけど相変わらずのこのありさま。
バスケを特に一生懸命やっていたわけじゃないんだけど、友達はバスケ部の子ばっかりだからなんだか付き合いにくくなって…。
休み時間も、お弁当食べるのも、最近はずっと一人。
楽しいことなんてもう何もない。
私の目から涙があふれてくる。
泣いたって何も変わらないのに。
バサバサバサ…
廊下の方から物音がした。本が落ちたみたいな。
先生、職員室に帰ったけど様子を見に来たのかな。
私はあわてて顔を上げて涙を拭う。
後ろの扉を開けて入ってきたのは、同じクラスの山本くんだった。
手にはファイルを抱えている。
さっき落としたのはあれかな。
山本くん確か生徒会だったから、それで使う資料とかかな。
って勉強がわからなすぎてどうでもいいことばかり思う。
こんなんじゃいつまでたっても帰れないよ…。
私はプリントに向かう。
ファイルを持った山本くんが私の斜め後ろに立ち止まる。
…山本くんは頭いいからこんな問題出来ないの信じられないんだろうな。
私は恥ずかしくなる。
山本くんが隣の机にファイルを置き、紙を取り出して何か書く。そしてそれを私に渡す。
私が空白にしていた問3から問5までの解答が書いてあるようだった。
「今日はもう遅いから。これ出して帰ったら」
山本くんが目を合わせないで私に言う。
「あ…ありがとう」
私がお礼を言うと山本くんは少し微笑み、再びファイルを抱えて教室を出て行った。
もしかしてこれだけのために見に来てくれたのかな…。
とりあえず私は答えを写し、職員室にいる先生にプリントを持って行った。