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〜虹村 修造のお話〜

第53章 -バレンタイン-


それからもう一度呼び出されたが、
もちろんきちんと断った。


学校が終わってもひかりからの連絡は
相変わらずなかった。


ひかりからは、
朝からなんも言われてなかったが、
学校から家に帰る途中、
オレは勇気を出して、
家へ向かっていた足を
ある店の前で止めた。


「いらっしゃいませ〜」


甲高い声の女の店員が迎えてくれる。
店の中にいるのも、
やっぱり女だらけだった。




気まずすぎんだろ…


しかも、混みすぎ…



誰もオレのことなんて見てない…
そう思うのに、この空間での
自分の存在の違和感に目眩がしてくる。


オレが入ったのは、
前に一度ひかりと一緒に来たコトがある
雑貨屋だった。


「お客様、何かお探しですか?」


オレの異物感に気付いたのか、
店員が声を掛けてきた。


「いや…その…彼女の…
誕生日プレゼントを…」


「そうなんですねぇ。
この時期だとプレゼント買いに行くだけで、
男性は大変ですよね。」


雑貨屋だったが、
バレンタインコーナーがあり、
バレンタイン当日にもかかわらず、
店内はかなり賑わっていた。


本当は誕生日プレゼントではない。


ホワイトデーのお返しだ。


今日、もらえるのか、
ちょっと怪しい気もすっけど…。




バレンタイン当日に
ホワイトデーのお返しを選びに来た…
とは、さすがに言えなかった。




今年のホワイトデーには…
オレはもう日本にいない。




「バレンタイン商品以外にも
たくさんありますので、
ゆっくりご覧になってくださいね。」


声を掛けてくれた店員のおかげで、
バレンタインコーナーではない
少し奥のほうまで行けたが、
”ゆっくりご覧に”…と言われ、
オレは苦笑いするしかなかった。


でも、バレンタインコーナーよりは
たしかに空いていたので、
あまり周りを気にせず、
ひかりへのお返しを選ぶコトができた。


ひかりへ早く渡したい。


ひかりの喜ぶ顔が見たい。



そう思う反面、
このままひかりに渡す時間が
来なければいい…
そう思ってしまうオレがいた。



時が進んでしまうから…。




ひかりの笑顔が見たいのに、
ひかりの笑顔を見ようと思うと、
別れが近づくなんて…



嬉しいんだか淋しいんだか…。



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