第5章 -帰り道②-(回想)
公園のベンチに座って、
ちょっと落ち着いたひかりさんは、
自分のことをゆっくり話し出した。
そんなひかりさんを邪魔しないように、
オレは黙って相槌を打ちながら、話を聞いた。
「2年の時の夏の大会でね、
今日の平澤くんみたいに、
相手選手と接触して転んで膝を打ったの。」
ひかりさんは視線を自分の膝へ向ける。
「病院では、『ただの打撲ですね。
2、3日で腫れはひきますよ』
って言われて、大会中だったし、
わたしも安心してた。
でも、病院で言われた3日過ぎても、
腫れも痛みもひかなくて…
むしろ歩くのもやっとで…。
違う病院で診てもらったら、
”ただの打撲”じゃなかった。」
ひかりさんの声は震えていて、
オレは思わず手を握りたい衝動にかられたが、
そのままグッとこらえ、話の続きを聞いた。
「膝のお皿にヒビが入ってて、
それがさらに悪化しちゃってて…。
手術しても、普段の生活に支障はないけど、
バスケを続けるのは、無理だって言われたの。」
そこでひかりさんは黙ってしまった。
俺は何も言えなかった。
俺の軽はずみなことばは、
ひかりさんの傷を
えぐってしまったのかもしれない。
「結局、手術はしたんだけど、
やっぱり膝は完治しなくて…。
部活は辞めたの。
でも、そしたら、白金監督に
男子バスケ部のマネージャーやらないか?
って声掛けられて…。
それで、今にいたる…って感じかな。」
最後は、何かを誤魔化すように簡単に、
そして明るく、
ひかりさんは話を締めくくった。