第45章 青い夏に【花巻 貴大】
「えーと、じゃあ、これから1週間、よろしくお願いします?」
「よ、よろしく?」
ここに今、1週間だけのぎこちないカップルが誕生した。
セミの鳴く声が、より一層大きくなった気がした。
「マッキ………、た、貴大はどうしてこの学校に入ったの?」
帰りの電車で、彼女は隣に座る花巻に聞いた。
彼との間は人1人分空いている。
これが朝の通勤ラッシュだとか、帰りの混む時間なら2人の間には汗だくのおっさんだとか、クールビズを決め込むサラリーマンだとか、もしかしたらいいおネイサンがいたかもしれない。
しかし、学校は夏休み中だろうが社会人は今あくせく働いているのだ。
「俺は、やっぱ……バレーかな」
「今日休んだのに?」
「まあ、そうだけどさ〜
及川の顔見たくねーの、今は!
そういうおまえも今日は部活あるだろ!」
「まあ、あるけどさ~
主将の私が赤点とか、後輩に顔向けできないでしょ?」
さっきまでの少し意地悪な笑顔が瞬時に困り顔になる。
表情がころころ変わっていく。
おもしろい。
「おまえは?」
「私は、なんと言うか……併願で受けたんだけど合格しちゃったら脱力しちゃって公立受けるのめんどくさくなったから」
「おまえ、併願で合格したのか!?
俺なんか先願でギリギリだったのに」
「まぁ、ね」
ハァ、と息をもらす
「おまえ、それなのに今回補習なのな」
「あ、それ言っちゃうの?
傷ついちゃうなー」
過ぎ去っていく景色を見つめながら笑うその顔はあからさまに笑顔というよりは、黒いオーラをまとった脅しに見える。
それ以上言うなよ?という脅しのように……。
花巻は、笑っていた。