第45章 青い夏に【花巻 貴大】
ミンミンとセミは猛々しく必死に求愛しているというのに。
津田は、未だ花巻のつむじをぼんやり見つめながら、そう思った。
セミは何十年も土の中で過ごし、やっと外へ出たってたった7日の命だ。
その7日の間に、彼等は必死に声を上げてメスを魅了し子孫を残していっては、潔く、プツリとその玉の緒を絶やす。
津田は考えた。
どうして土の中なら長生き出来たかもしれないのに、わざわざ外へ出て7日の人生を歩むのだろうか。
土の中では、セミはほとんど仮眠状態らしい。
つまり、実際は外での7日の記憶しか彼等は持たない。
どうせ死ぬとわかるなら――
彼等は土から出ないのだろうか。
ならば、私も今の状態のままの方がいいのではないだろうか、と。
花巻は、机に貼り付けていた顔をあげおもむろにこういった。
「なあ、津田。お前、好きってどんなのかわかる?」
「へ?」
彼女は考えた。
左斜め上を見上げながら、考えた。
「うーん、意識しなくても自然と目が追いかける……とか?
そもそも、マッキーの方が分かるんじゃないの?よく『あいつはあの子がすきだー』とか、『絶対つきあってるー』とか言ってるじゃない」
「そうだけどよ〜
なんか、そういうのは雰囲気でわかるんだよなー
俺が知りたいのは、キモチだべや」
「なら、さ。
探してみない?」
「なにを?」
「恋ゴコロを!」
ニッと笑う津田の顔を、花巻は少し驚いた顔で見つめた。