第44章 *たとえあなたが忘れても* 【澤村 大地】
冷たくて暗くて、無機質な瞳が俺を捉える。
そこへ、医師が入ってきた。
津田の具合いを聞いて、俺を呼んで外へ出るように言われた。
医師から伝えられる津田の状態。
彼女は、事故で頭を強く打ち付け、脳震盪を起こした。
幸い、命に別状はなかった。
そう、命には。
強く打ち付けたせいで、彼女は記憶を失った。
そして、記憶を保持することも難しい状態だという。
もって、2日。
2日経てば、全て消える。
全て、忘れてしまう――。
親の顔も、自分の名前も、俺のことも、何もかも。
神様
津田は何をしたって言うんだ。
再び、彼女のいる病室に戻ってくる。
おばさんは、心配した表情で俺を見た。
俺はまっすぐ津田の元へ歩む。
彼女の目線と同じ姿勢になって、
俺はまっすぐその瞳を見た。
戸惑い揺れ惑う瞳。
「俺は、澤村 大地だ。
よろしくな、津田」
「わ、わたしは……………
津田……… 葵、で、す」
差し出した手をおずおずと握ってくれた。
俺はその手をしっかり握りしめて、握手を交わした。
後ろで津田のお母さんは、涙を浮かべていた。