第40章 *白……*
こんな人混みの中、見つかりそうもない
普段の自分ならそう思って諦めるのだろう
むしろ、交番とかへ預けるだろうか
今日の自分はそんな『いつもの自分』がいなかった
こうやって見つかりそうもないあの女の元へ走って
息を上げて、肩で呼吸して、必死にあの背中を目掛けているんだ
やはり、僕は僕じゃない
今日の僕は、僕じゃない
・
・
・
・
どのくらいの距離を走ったのかわからないが、女はわりかしいともたやすく見つけられた
公園の僕の腰の高さに満たない程の柵の上でうつむいていた
「あの……」
息を調えて話しかける
ゆっくりと顔を上げたその女は目が赤く腫れていて泣いていたみたいだった
「これ、落としましたよ」
そう言って、右手の物を差し出す
「……ありがとう……ございます」
ゆっくりと僕の手からそれを受け取る
手が触れ合った瞬間、彼女の手が氷のように冷たくて驚く
「あの、大丈夫ですか」
知らず知らず言葉が口からついて出た
「うん、大丈夫……
ありがと」
ようやく目を見て話をしてくれた
その事に異様に心が疼いた
「これ、どうぞ」
巻いていたマフラーを彼女に差し出す
目を見開いて「君が寒いでしょ?いいよ」という彼女に強引に渡す
「僕、走ってきたんで」そう言って、まだ受け取ろうとしない彼女の首にほわりほわりと巻きつけた
そして、「ありがと……へへ、あったかい」と笑う彼女に僕の心はざわめく