第40章 *白……*
寒くなってより一層、沢山の人が街を速歩で歩くようになった
マフラーに顔を埋め、手袋をしても尚手を擦り合わせる
歩道を歩く全ての人は
僕もこの寒さを鬱陶しく重いながら迫り来る人の垣間をかいぬぐっていく
ドンッ
「すみません」
誰かわからない人とぶつかる
どちらからともなく謝罪の言葉が通う
反射のように吐出されたその言葉に心なんか篭ってすらいない
だけど、その人の声は湿っぽかった
その人は下を向いたまま小さく頭を揺らして走り去った
マフラーも、手袋もしていなかったのが何とも寒々しい
何でこんな日に防寒していないのか
すこし考えたけども、所詮ぶつかっただけの人
自分には何の関係もないし、もたないし
マフラーに再び顔を埋めて考えるのを止めた
しかし今度は足元の物を見つけ、また頭が思考を始める
誰のだろうか
いや、分かっている
どうせさっきぶつかった女の物だ
しかし、そのまま落し物を落とされたままにしておくこともできなくて。
なんだか、わからないけど
無性に届けたくて
僕は走っていた
それを拾い上げて、ぎゅっと右手に握りしめて
あの女が走っていった方角へ