第6章 本を読む人
あの日以来、俺は吉村のことばかり気にするようになった。
俺は吉村に恋をした。
吉村はこのままでもいいと言った。
それはダメだと思う。
ここから連れ出すと約束した。
俺はなにがなんでもその約束を果たす。
気が付けば、涼しい秋が過ぎ寒い冬に変わっていた。
今年初雪の日。
俺は吉村の頭に積もった雪を払い除けてやると、嬉しそうにニコニコと笑う吉村が俺を見る。
「なぁ、吉村。寒くねぇのか?」
「寒いっていうのがわからないの。なんにも感じないんだ」
「そうなんだ」
数刻の沈黙が俺たちを包む。
俺は勇気を出して好きと言う気持ちを伝えようと思う。
「なぁ....」
「東峰くん」
俺の声は吉村の声によって遮られた。
「私が殺された時もね、こんな雪降る日だったと思う。だからかな。雪を見ると哀しくなる」
吉村の哀しそうな顔を見ると俺は吉村を後ろから抱きしめる。
なんて冷たい体なんだろうか。
「俺な。吉村が好きなんだ」
吉村の肩が少し動いたのがわかった。
「吉村を連れていきたい場所があるんだ。一緒に来てくれるか?」
吉村は泣きながらこくっと頷いた。
すると、カシャンという金属音が聞こえた。
吉村の足を見ると、足枷が外れていた。
なんだ。
そういうことだったんだ。