第51章 番外編スリー
「何がおかしいの」
「大きくなったね、マリ」
「は?」
「そんなこと言ってくれるとは思わなかった。いろいろ考えさせてごめんね。・・・ここだけの話だけど、やっぱり私スイレンのところに行くのはやめようかなって思ってるの」
「え?・・・何で?」
「だって、よく考えてみたらスイレンには心に決めた人がいるって言ってたじゃない?それなのに私がスイレンのところに行ったら申し訳なくない?」
「いや、それハル姉のことだって。本人が言ってたし」
「それはない。マリの勘違いだよ」
「ええ・・・?」
少しだけスイレンが憐れに思えてきた。
普通に考えておかしいと思わないのか?
(あのスイレンが、普通の女の子に執着するなんて・・・たぶん、二人の間には私に知らない何かがあるんだろうけど、ハル姉は基本的にそういうのに鈍感だからなあ・・・)
「ハル姉、やっぱり行ってきて」
「え?何?」
「スイレンさんのところ。私は平気だから、ね。ここのことも安心して任せてよ」
「でも・・・」
「大丈夫。私たちは離れてても、家族でしょ?」
誰がどれだけ長く誰かの傍にいたとか、血は繋がっていないとか、惚れた腫れたの騒ぎだとか、誰が誰を愛しているとかいないとか。
(きっと私は、もう誰かに捨てられたくなくて・・・私を愛してくれる人を必死に繋ぎとめていただけだったんだ)
「もう全部分かったから、大丈夫」
「全部って・・・?」
「全部ったら全部よ。いつまでも私を子ども扱いしないで」
「はー?中学生は立派な子どもだろうが」
「それならハル姉だって子どもでしょ!」
「ハル姉は来年から高校生なんですー!大人ですー!バイクの免許とれるんですー!」
「一歳しか変わらないでしょ!」
そう、一歳しか変わらない。
それなのに、マリから見る姉は大人に見えた。
(いい。・・・これで、いい)
いつだってマリを守ろうとするハルを守ってくれる人のところに行ってほしい。
年相応の姉でいられる場所に行ってほしい。
(・・・でもやっぱり)
(さびしいなあ)
姉の前で泣くことだけはしたくなかった。
せっかくいい感じに送り出せそうなのに、台無しにしてしまう。
(よし、決めた)
もし泣かせたりしたら、あの綺麗な顔面ぶん殴ってやろうと決めたマリであった。