第45章 わたしと私
止まらない涙を抑えようとして、何度も目元をこする。
すると、スイレンの手が私の手を掴み、こするのをやめさせると、そこから優しく抱きしめられた。
「は、はなしてっ・・・」
『後生でも、何でもいいけど・・・僕は、今回のキミのお願いだけは聞きたくないなあ・・・』
「・・・ふざけんな・・・」
『キミのこと大好きで大切だから・・・僕はキミといっしょにいたいんだよ』
「・・・私はいやだって・・・何でわかってくれないの」
『フフ、ごめんね怒ってる?でも、今回は僕のワガママ、聞いてよね』
スイレンの言葉が、私を弱くする。
ああ、もう、どうしたら―――。
『僕といっしょにいてよ。僕のために、いっしょに死んで・・・?』
ギュッと、スイレンの腕の力が強くなる。
『ねえ、いい?』
確かめるようにそう問われたとき、涙が一筋こぼれた。
「・・・もう・・・もういい・・・わかった、わかったよ・・・」
スイレンの背中に、ゆっくりと腕をまわす。
『・・・ありがとう』
「・・・忘れてたけど、アンタって・・・頑固だったよね・・・」
『うん、そうだよ。キミだからね』
スイレンの笑い声がする。
「・・・バカなヤツ・・・本当、物好きね・・・」
『へへ、ありがとう』
「褒めてない・・・」
スイレンがあたたかった。
(・・・もう・・・いいのかな)
抱きしめる感触が、大きな幸せに感じられた。
「・・・アンタには世話かけっぱなしね。さっきは殴ってごめん。・・・でも正直ね、嬉しかったんだよ」
『いいよ、そんなこと。・・・ねえ、キミに僕の命を渡すから・・・それで、お兄さんにお別れを言っておいでよ』
「・・・うん」
『僕は少し先で待ってるから』
「・・・スイレン」
『ん?』
「ありがとう」
私がそう言うと、スイレンは小さく笑って『どういたしまして』と言った。
「ねえ・・・スイレン」
『ん?』
「・・・大好き。ずっと大好きよ。スイレンに会えて良かった、スイレンと死ねるなら・・・私は嬉しいよ」
私が涙交じりの声で言うと、スイレンの鼻を啜る声が聞こえた。
そして私は、意識が溶けていく最後まで、スイレンをずっと抱きしめていた。
『わたしと私』
“キミのために死ねる理由”