第44章 大切なもの
“ハル、そろそろ起きろ。もうすぐ昼だぞ”
“あらあら、朝からイタチに起こしてもらったの?私がいくら呼んでも起きないから、もうすぐサスケに行ってもらおうと思ったのよ”
“母さん、サスケは修行中だ。邪魔するのはよくないよ”
“今日は小南さんたちが来てくれるんでしょ?父さんも母さんも外してるから、よろしく伝えといてね”
“わかってるよ”
ここは偽りの夢の中。
あたたかくて・・・冷たい。
本物じゃないということはわかっているけれど、それでもいい。
この夢をずっと見ていたい。
この夢が覚めなければいい。
けれども、そんな私の思いとは反対に、私を呼ぶ声が聞こえた。
(この声・・・誰だっけ)
“ハル!”
見ている世界に亀裂が入った気がした。
「邪魔しないでよ・・・」
その声に、私の中の何かがひどく揺さぶられる。
誰の声かはわからなくても、それは私にとって、とても大切なもののような気がした。
“お願い、起きてよ・・・”
(誰、だっけ・・・)
「スイレン・・・?」
その名を口にした瞬間、誰かに引っ張り上げられるような感覚に襲われたと同時に、激痛が走った。
「いってーな!!誰だよ、ふざけんな!!」
パッと目が覚めて、私はとりあえず目の前のものを殴った。
腹にはクナイが刺さっており、これが激痛の正体だと気づくのに時間はかからなかった。
「はあ?・・・何これ、意味わかんない・・・」
クナイを投げ捨て、自己修復が終わると、立ち上がる。
体のあちこちが痛い。
最悪な寝起きにイラつきながら頭をガシガシと掻くと、辺りを見渡した。
「ここは天国か?・・・ん、あれ?」
(これ・・・戦争?)
(・・・そういえば私、オビトに・・・てか何でまだ生きてるの?スイレンに殺してって言ったのに)
「まだ、死んでない・・・一体、スイレンは何をしているの」
すると、横から視線を感じ、振り返った。
「あ・・・スイレン」
『え?・・・え?ハル?』
スイレンが頬を抑えながら、目を丸くして私を見ている。
目が合って数秒、スイレンは私に向かって駆けてきたと思えば、勢いよく抱きついてきた。