第41章 スイレンの覚悟
「・・・ハルにはね、一種の呪いがかかってるんだ。僕がかけたものなんだけどね」
「呪い・・・?」
「そう。僕は万能治癒の特異体質を持っていてね・・・対象の血液を体内に取り入れることで僕の体質と同じことが相手にも起こるんだ。だから急所を刺しても死なないし、どんな致命傷だって必ず治る」
「それならハルは、不死身・・・ってことか?」
「そう。呪いが完全になってしまうと僕の体と一体化してしまうんだ。つまり、呪いは不完全な方が都合が良い。だから、そのために薬を飲んでもらっていた。呪いの効果を抑えるためには、僕の血液を相手に飲ませなきゃいけないんだけど・・・そんなこと、ハルには言えないでしょ?」
「・・・」
「薬には僕の血液が含まれてんの。で、呪いを解くには、僕自身が心臓を止める必要がある。・・・つまり、殺すしかないんだ」
「なあ・・・ちょっと待って、主様」
そこまで淡々と話していたスイレンに、ネネの心なしか震えた声がかけられる。
「・・・なんで・・・なんで、ハルを殺す前提で話してんの?ま、まさかとは思うけど、アンタら・・・」
「ハルはあの男に狙われて、一回拐われてるんだ・・・帰ってきてからハルの体には封印術の一種が施してあった。たぶん・・・あれは自我を封印するものだと思う。だから、向こうがあの子を利用するっていうのは自然な考えだよ」
「なら、それを解けばいいんとちゃうん?」
「その方法がわからないから言ってるんだろ」
無意識のうちにスイレンの口調が強いものになる。
ネネもそれを感じ取って、「ごめん」と小さな声で謝った。
「正直、ハルが自力で封印を破ってくれるとは考えにくい。・・・ハルの隠していた負の感情につけこんだのがあの封印なんだ。そういう感情が強ければ強いほど、封印は強力なものになる。だから、戦争が始まって、あの子が何かしてしまったとして・・・それなら、目を覚ます前に完全な眠りについてもらう方が、ハルにとっても・・・幸せなのかもしれない」
“完全な眠り”―――それが“死”だということは言葉にしなくても自ずとわかった。