第39章 あなたのこと
小南に連れてこられたのは、雨隠れの里だった。
「・・・ハル。また外を見ているの?」
「うん。本当に雨ばっかりなんだね・・・初めてきた里だけど、面白いね」
「雨はきらい?」
「ううん、雨は好きだよ。いろんなことを洗い流してくれるから・・・あと、傘を使うのが好きだったから。なんちゃって」
「私も雨は好きよ。でも、この国が泣いているようにも思えるから、やっぱり好きじゃないかも」
「あはは、どっちなの?」
雨隠れは小南が生まれ育った場所だ。
初めてくるところだけど、小南は懐かしんでいるように見えた。
ここにきてしばらく経つ。
その間に、私は小南にばれてしまったことがあった。
“ハル・・・そのアザは、何・・・?”
“えっ?・・・ゲッ”
お風呂に入ろうとしていたとき、つい気を抜いてしまい、アザが見つかってしまっていた。
アザはいつの間にか糸のような細かいものに変化しており、毛細血管の如く私の体に巻きついていた。
“あなた、まだ私に隠し事をしていたのね?”
“・・・”
バスタオル一枚で正座させられ、正直に告白したのは記憶に新しい。
その時からだろうか。
彼女の目の奥には、固い決意が見え隠れしていた。
私はこの目を知っている。
(・・・あの日のイタチ兄さんとまるで同じ・・・きっと小南ちゃんはオビトを連れて死ぬ気なんだ)
「やめて、死なないで」―――なんて言ったら、彼女を困らせてしまうのだろうか。
あの時、ヒナタを眩しいと思ったのは、自分の意志で大好きな人を守ろうと動く彼女が羨ましかったから。
(私も・・・そんな風にできたら)
いや、違う。
今まで私はできなかったんじゃない。
できるのに、しなかっただけだ。
見殺しにしただけだ。
(・・・小南ちゃんは私の大切な人。マダラなんかに奪わせやしない。絶対に小南ちゃんだけは守る。絶対・・・小南ちゃんだけは・・・)
大切な人のために命を落とすなら、本望だ。
私がそう心に決めたとき、小南も思う。
(ハル・・・あなただけは、私の命に代えても・・・)