第37章 サスケとハル
「まだいける?」
そう言うと、クロはニッコリ笑って「うん!」と言った。
意味が通じたようで安心したが、束の間、クロが私に抱きつき耳元に顔を寄せた。
「一回私を消して。もう一度出した方が情報を共有できる」
「・・・ちょっと、クロ何してんの?」
「何って・・・いい匂いがするなあって。水月さんも匂ってみてください」
「ボクがそんなことしたらサスケに殺されるんだけど」
「ですよね、私もやめた方がいいと思います」
「お前が言ったんじゃん」
「・・・あ、トイレ行きたいんで、ハルちゃん案内してくれません?」
クロを見ると、ニコニコと笑って私を見ていた。
そういう作戦でいくのか、と思いながら、水月の「無視かよ」という声を聞き流し、クロを案内するフリで奥の方へと歩いていった。
(よし)
トイレへ向かいながら“分身”を消す。
“分身”の体験した記憶が私の中に流れ込んでいく。
(今までは、重要なことだけを分身から私へ伝えるようにしていたから、細々としたものはわからなかったけど・・・)
他人のフリをして、客観的に私自身を見てわかったことがある。
「私、あんな顔で嘘つくんだなあ・・・」
「トイレに行く」だなんて嘘は、小さいものかもしれない。
でも、大小関係なく嘘は嘘だ。
もはや呼吸と同じレベルで、私は嘘をついていた。
(・・・サスケ兄さんに会ってから、嘘ばっかついてる。このままだと、私の存在も嘘になってしまいそう)
印を結び、分身を出す。
「じゃあよろしくね、“クロ”」
「・・・オッケー。任せて」
頑張っての意味も込めて、控えめなハイタッチをすると私たちは居間に戻ったのだった。
『サスケとハル』
“兄妹と嘘”