第37章 サスケとハル
最近、ハルさんの雰囲気が少し変わった。
時折見せる表情はどこか憂げで、本を読んでいることが多くなった。
一冊しかないその本を彼女は何度も読み返す。
たしか、その本はイタチさんからのプレゼントだったはずだ。
彼女がいなくなった彼の面影を探しているように見えて、私はそんな彼女をただ見ることしかできなかった。
かといって、これはあくまで私から見た彼女の変化だ。
実際、彼女は何も言わない。
だから、本当は彼女が何を思っているかなんて、私にはわからない。
「―――そうですか」
「ああ、アイツには役に立ってもらう。一応逃げ道は防いでおいたが・・・ま、当分は何もすることはないかもしれないが」
マダラからハルが暁に入ることを聞かされたのは、二日前のことだ。
イタチさん、あなたの大切なものが、大変なことになってますよ。
そう、かつての相方に言ってやりたい。
彼女は自分に何も言ってこなかった。
その場にいた小南とペインは何も言わなかったが、小南の表情は険しいものだった。
・・・当たり前だ。
死んだ彼らが聞いたなら、きっと反対するに決まっている。
自覚はないだろうが、彼女は組織の中で小さな光のような存在だった。
もちろんそう感じていたのは自分も例外ではない。
彼女という穢れなき存在いることで、血に染まっている自分たちが、気休めではあるが、浄化されているような気分でいられた。
「鬼鮫さん。私を、サスケ兄さんに会わせてはもらえませんか」
彼女を守らなければと無意識に思うようになったのは、きっとイタチに頼まれたからというだけじゃない。
たぶん、同情したのだ。
何もかもを失っていく彼女に。
だから、なのだろうか。
「わかりました」
そう迷いなく答えたことに後悔はしていない。
彼女の望みを叶えてやろうと思ったのは、同情でも、イタチの頼みでもなくて。
(私自身が、この子のことを大事に思っているから・・・かもしれない。私もずいぶんと情に厚くなってしまいましたねえ)