第34章 恩返し
小南は膝をつくと俯く私のフードをゆっくりと取った。
「・・・ハル?」
「な、何でもないの」
土だらけの私の手を見た彼女は何かを考える素振りを見せたが、パッと顔を上げると「洗ってきなさい」と柔らかい声で言った。
「・・・うん」
頷いて洗面所へ向かう。
その間に小南が紙分身を出してどこかへやっていたが、そんなことを私は知るよしもない。
土といっしょに感情も流すようにして居間へ戻ると、小南が二人分の温かいお茶を用意していた。
「落ち着いた?」
「・・・え?」
「何か、あったんでしょう?別に無理に話せとは言ってないわ、でも、溜め込むのは良くない」
少しだけ笑った小南の優しさが伝わって、「ありがとう」と私の口角も少しだけ上がった。
「・・・みんなはずっと優しいよね」
「・・・?」
「なんでもない」
それから小南と他愛もない話をして、冷めたお茶をちびちびと飲んでいた。
スイレンはハルに言われた通り、アスマを木ノ葉に帰す準備をしていた。
『おい、お前』
「・・・なんだ」
『もう帰っていいらしい。つまり、用済みだ』
「は?」
『お前が外に出ないように張っておいた結界もすでに解いてある。けど、帰る途中に死なれては困るから・・・コイツを連れて行きな。ある程度の戦闘能力はあるから』
そう言ってスイレンは、フクロウをアスマの肩に飛ばした。
『よろしゅう!』と元気よく挨拶をするフクロウを見る。
スイレンは預かっていた額当てをアスマに投げて返すと、アスマの目をじっと見据えて口を開いた。
『でも、一つ条件がある』
「?」
『約束しろ・・・ここでのことは、誰にも口外しない、と』
「・・・なぜだ」
『答える必要はないね。・・・別に、難しいことを言ってるつもりはないし、助けてもらったんだからそれくらいしてくれてもいいと思うけど』
結局、アスマはその条件を飲み、里へ戻った。
門の前に着いた瞬間、フクロウはどこかへ消え、その場にはアスマ一人が残された。
再び木ノ葉へと足を踏み入れたアスマは、まるで幻のもののように扱われ、その帰還を皆に祝福された。
しかし、誰が尋ねても空白の数日間のことは話すことはなかった。
『恩返し』
“渦巻く想い”