第33章 笑顔
サクラも綱手のところへ行くというので、いっしょに行くことになった。
大体のことを伝えると、思い切り眉を寄せられた。
「なぜだ?」
「・・・なぜって?」
「今までお前は自分から希望したことはなかっただろう。何か理由でもあるのか?」
たしかに、彼女の言う通りだった。
私は今まで、言われた任務にしかついたことがない。
「よそ者が何を言っているんだ」と思われるのを危惧したのもあるけど、今までは綱手に信用してもらうことを第一としていたからだ。
「今なら、ワガママを聞いてもらえるかなと思ったからですね。それにヤマトさんだって、綱手姫に許可をもらって来たらいいって言ってくれました」
「・・・わかった。行ってきてもいいぞ」
「ありがとうございます!頑張るんで!」
これで決定だ。
内心ガッツポーズをしていると、後ろにあるドアがガチャリと音をたてた。
私とスイレンを含め、その場にいた全員が振り返ると、そこには見たことのない男がいた。
・・・いや、語弊があるかもしれない。
私はこの男を知っている。
でも、実際に見たのはこれが初めてだ。
「久しぶりだな、綱手姫」
「・・・ダンゾウか」
彼は、サイに関する質問をいくつかしたあと、一瞬だけ私の方を見て、目もあったが、その後何事もなかったかのように部屋を出て行った。
彼がいる時間は短かったけれど、出て行った瞬間、スイレンが何やら感じ取ったのか『あの人間、嫌な感じがする』と威嚇していた。
「・・・うん、わかってるから」
私のいとこにもあたる、うちはシスイはあの男に殺されたようなものだ。
あの隠している、片手と片眼には―――うちは一族の命が入っている。
―――何が平和だ。 何が犠牲だ。 お前に殺された一族の人間がどれだけいると思っている。 イタチがどんな思いで―――。
「・・・ロ・・・クロ?」
「・・・あ、なに?」
「私は準備しに戻るから。アンタもしときなさいよ」
「うん、わかった。あとでね」
(あの人も、目指すところは三代目と同じだったんだな・・・皮肉だ、としか言いようがない)
「失礼します」と最後まで礼儀正しかったサクラに続いて、私も部屋を出る。
そのまま別れ、私は一足先に集合場所へ向かった。
カツ、カツ、と杖をつく音が、やけに私の耳に残っていた。