第2章 子供時代と一つの事件。
「・・・・・・・・」
イタチは、自分の肩に顔をうずめている妹の頭を撫でた。
多分、泣いている。その証拠に、今、自分の肩が熱くて濡れているし、ときどき「ズズッ」としゃくりあげる声も聞こえてくる。
(やっと、泣いてくれた)
自分の妹は、誰に似たのか、あまり子供っぽくない。
例え、道で転んで血が出たとしてもマジマジとそれを見つめその血をチョンと触っているような子供だ。
それに加えて、欲しいものも言わない、わがままも言わない。普通の親からしてみれば「手のかからないいい子」とも思われるだろうが、ウチの母は違う。
初めての女の子で、とても喜んでいた。
とても妹のことを可愛がっていた。
もちろん、自分だってそうだし従妹のシスイだって自分の妹のように可愛がってる。
――――だけど、
この前だって。
『ハル、歩けるよ。サスケ兄さん起こしちゃダメ』
ハルに本を読んであげようか、と言った時も。
『ハルはいいよ。それよりも、サスケ兄さんの修行に付き合ってあげなきゃ』
妹は、自分の兄のサスケを優先する。
妹は、子供っぽくない。
わがままも言わない、泣かない、「いい子」だけど。
それが、時々怖くなる。
この子は、自分のことをおろそかにしすぎている。
どこでそんな癖がついたのかは知らないが、我慢することが当たり前のことになっている。
だから、今日、泣いてくれて、正直ホッとした。
(どうか、自分が愛されていることに気付いてほしい)
そんな思いも込めて、ハルに伝えた。
『・・・私なんかの誕生日に一緒にいたっていいことなんてないのに』
本人は気付いていないかもしれないが、あの時、ボソボソと聞こえるか聞こえないかの小さい声で、ハルは呟いたのだ。
聞こえていて、本当に良かったと思う。
あの時のハルは、不思議そうにそう言った。
その言葉で、ハルに「そんなことない」って伝えることが出来た。
もし、聞こえてなかったら。
(きっと、あの子は”愛”を知らずに生きていくだろう)