第5章 指輪滑伝〔黒〕(逆ハー夢)第一章
「でさ、聞いてなかったんだけど名前は?」
どうやら凌統さん、それを聞きに来たらしい。
そう言えば言ってなかったな。孫策さんって結構大雑把だ。
「…被害者Aです」
ふっと自虐気味に言って見たら、
「ふざけてんじゃない!」
と怒られてまたチョップされた。
うん。ちょっとふざけすぎました。
それ以来、私は呉のみなさんからAと呼ばれるようになりました。
これも身から出た錆というやつですね。
「…で、まだ虎の腹から出てこないわけ」
「はい…。ずいぶん時間たったから、出てきてもおかしくないはずなんですけど…」
そう。
こうして虎の世話をしているのも、飲み込んだ指輪が排泄されるのを待っているから。
でも、もう2日経っているのに、指輪が出てくる気配はない。
どこかに咥えて言ってしまったのかもしれない。
考えれば考えるほど絶望的な気分になる。
「…見つからなかったら…」
私は一生この世界から出られないのだろうか。
考えたくもない。
「あったものは、消えたりしない。
どこかに必ずあるんだ。気を落とさないことさ」
そう言って、凌統さんは子虎の一匹の頭を撫でた。