第20章 喪失への恐怖が
「あ、ああぁ…あ、つ、椿、ちゃ…?」
ごろりと横たわったそれからは、もう生きているというぬくもりさえ感じられなかった。見ているだけで分かる。力なくくたりとたれた腕には紅が伝っている。
「おや、どうかされたのですか」
「やだ、何っ何して…あああぁあああああぁぁぁあぁあ!!!!!!」
どうにか事態を認識し始めた脳が、悲鳴を上げる。
見たこともない大量の紅が脳に流れ込んでくるようで、それはもう酷い吐き気とめまいに襲われた。
「げほっ、あ、う、ッ…あぁああッ!!!」
拳を地面にたたきつけ、何度も吐き、何度も叫ぶ。
それを横で見ていた光秀は楽しそうに笑っていたのだ。
「大切なモノが、失くなってしまいましたねぇ」
「椿ちゃ、あぁっ、あ…!」
「この壊れる様を私は見たかったのですよ」
もう椿を見ていたくなくて俯いた頭を光秀は無理矢理自分の方に向かせる。
「どうしましょう、もうここにいる意味がなくなってしまいましたが…」
「…や、だ…っ」
「何を拒んでいるのです、大切な人の死ですか?それとも自分が置かれたこの現状をですか?」
光秀は心底楽しそうにに問う。もう目の前の光秀の顔でさえ判別できなくなるほど、の視界はぐらぐらに揺らいでいた。
「残念ながらどちらからも逃げられませんよ」
「嫌だ、ヤダ…なんで…?!なんで…」
疲れたのか、は気絶してしまった。
ただ一人、光秀だけはそこで愉快そうに笑い声をあげていたのだという。