第14章 母親の声が
突然の事で驚きすぎて声が出ず携帯を耳に押し当てたまま母親からの怒鳴り声を聞いていた。
『なんとかいいなさい!』
「なんとか!」
『そういう意味じゃない!』
つい普段のやり取りをしてしまい、お互い間をあけてからクスクスと笑いあった。それはまるでトリップする前に戻ったかのようで、今は戦国の世に置かれていることを少しだけ忘れさせてくれた。
「…ごめん、お母さん。お父さんにも言っておいて、片付けられなさそうだって」
『……片付けくらい、高校生なんだからちゃんとしなさい』
電話の向こうから呆れたようなため息が聞こえ、もう一度は謝る。
『薫ちゃんが話してくれたの、本当の事なのね?』
「嘘はつかないよ、本当なの…信じられないかもだけど」
自分勝手に平成から飛び出してしまったことを改めて悔んだ。
心配してくれたのは両親だけではない、友達も、学校の先生も、ましてや顔見知りでもない警察の方々にまでいらぬ世話をしてもらっているのだ。ごめんの一言では片付かないのをも理解している。
「今奥州…東北の方にいるの」
『えっと…伊達政宗の所?』
「そう。友達の椿ちゃんと旅をしてるところなんだ」
『…椿ちゃんに迷惑かけないように楽しんできなさい。あ、それとちゃんとご飯も食べるのよ?栄養をしっかりとって、健康には気を付けて。あとは』
の母親は突然話が止まらなくなった。はただ黙ってうん、うんと合図地を打っているだけだった。
次第に声は掠れていき、嗚咽と共に止まってしまった。