第5章 過去………
稟の張り上げた声で、ビクッと肩が僅かに揺れる2人。やがて、今まで俯いていた顔をあげる稟。不気味な笑みを浮かべて……。
「五月蝿イ五月蝿イ五月蝿イッ!!!!!!!!」
今までの稟とは違っていた。今でも2人を襲い掛かりそうな緊迫した状態となった。香李は、震える手で蓮の右袖を掴む。
「れ、蓮…。どうしよう……。」
「チッ…、一度稟から離れよう。此処にいたら、殺されるかもしれねぇからな。」
香李と蓮は、一歩後ろに下がる。稟は、包丁を2人に見せつけるように、軽く包丁を向ける。やがて……。
「殺シテヤルッ!!!!!!!!」
「走れッ!!!!!!」
稟が襲いかかってきて、蓮が声を張り上げ走り出す2人。2人の後を追いかけてくるように走ってくる稟。香李は、涙目になりながら訴えるのだ。
「どうしちゃったの?稟は……どうして………??」
「今は、走る事だけに集中しろッ!捕まったら何もかも終わりだぞ!!」
蓮も悔しそうな表情を浮かべながらひたすら走る。気づいた時には、稟が追いかけて来る様子はなかった。やがて、2人はそれを確認して足を止めて、荒れた呼吸を整えるのだった。
「……っ…はぁ…はぁ…。もう、此処まで来れば稟の奴も来ないだろう…。」
「うぅ………稟………っ……………。……なん………で………。」
香李は、地面に両膝をつき苦しそうに泣いていた。その様子を蓮はただ単に、見ていただけだった。何をしてあげればいいか…分からなかったからだ。蓮の心の中で、友人関係の絆が途切れていく、と焦りを感じていたのだ。
──やべぇぞ。友情崩壊だぞ……。
蓮は、香李が落ち着くまでその場から離れなかった。