第7章 記憶の先に
【The kind words that supported her】
あたしには、どうしても思い出したいことがあった
思い出そうとしても霧のように逃げてしまう言葉
それは、父の言葉だった
その日、父と私は一緒に登校していた
私は母に何かでひどく怒られ、落ち込んで
不機嫌だった
父と私は手をつなぎ歩いていた
そこで何かを話していて
どんな話だったのか、
突然、父は立ち止まり
私の背までしゃがんで
何かを言ったのだ
私の目を真っ直ぐに見つめて
父とちゃんと話したのは
それが最後だった
父はその後、出張先で事故にあって
帰らぬ人になった
あの言葉は何だったのだろうか
なにか大切なことだったような気がするのに
思い出せないでいた
私は成長し、一児の母になった
母親とはあまりうまくいってないし
夫は優しいが帰りが遅かったので
子育てはけっこう大変だった
ある日、息子がずいぶん落ち込んで学校から帰ってきた
生真面目な息子は学級委員をしていたが
皆、言うことを聞いてくれないというのだ
私とそっくりだ
がんばり屋の息子の頭を私はなでた
私もひとりだった
母が頼りにならなかったので
私はいろんなことを一人でやっていた
大学も自分で決め
奨学金の申請も自分でしていた
生活もわからないことだらけだったけど
自分でなんとかした
でも
いつも誰かが助けてくれた
一番支えてくれたのは
今の夫だった
今日も遅くなった夫に
私は息子のことを話していた
「君とそっくりだね」
夫は笑う
そして、寝ている息子の頭をなでて言った
「そんなに一人でやらなくていいんだぞ
世界は君の味方だ」
ーえ?
私は脳の奥がちくんとしたように思った
あの日の父の言葉が
心をよぎったのだ