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緋色の誓い

第7章 新たな道標



弥彦が下がる。

追う。

届かない。

間合いが詰まらない。

弥彦が横へ流れる。

視線だけが遅れる。

打ち込み。

受ける。

パシッ。

衝撃が掌へ突き抜ける。

傷口が軋む。

握力が抜ける。

押し返せない。

自然と一歩下がる。

さらに半歩。

「斗亜」

弥彦の声。

その声は勝負中のものじゃなかった。

心配する声だった。

その一言が、胸へ深く刺さる。

「黙れ」

低く返す。

焦りが滲む。

踏み込む。

力任せになる。

竹刀が大きく振れる。

読まれる。

弥彦は冷静だった。

するりと懐へ入り込む。

速い。

トン。

今度ははっきり胴を捉えられた。

乾いた音が道場へ響く。

斗亜は動けない。

呼吸だけが荒い。

弥彦はゆっくり竹刀を下ろした。

「今日はやめとくか?」

その優しさが、何より苦しかった。

守る側だった自分が、守られるような言葉を掛けられている。

「もう一回だ…」

掠れた声。

震えていた。

「斗亜…」

「もう一回だ!!」

叫び声が道場へ響く。

弥彦は困ったように息を吐き、もう一度竹刀を構えた。

斗亜は真っ直ぐ踏み込む。

間合いも呼吸も考えない。

ただ前へ。

竹刀を振り下ろす。

大振りだった。

軌道が甘い。

弥彦は半歩体を開く。

空を切る。

踏み込み過ぎた足が流れる。

体勢が崩れる。

その瞬間。

トン。

竹刀の切っ先が喉元で静かに止まった。

斗亜は動けなかった。

避けられない。

受けられない。

完全に取られていた。

静寂。

風だけが障子を揺らす。

弥彦はそっと竹刀を下ろした。

「斗亜…」

その声が遠く聞こえる。

斗亜の視界には、自分の右手しか映っていなかった。

手拭いの巻かれた手。

震える指先。

力の入らない掌。

頭の中で、昨日の剣心との立ち合いが重なる。

そして今。

何も変わっていない。

違うのは相手だけ。

剣心ではない。

弥彦ですら、今の自分は捉えきれない。

膝から力が抜けた。

竹刀が畳へ転がる。

コトリ。

その音だけが、やけに大きく耳へ残る。
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