第7章 新たな道標
昼の立ち合いが終わってから、どれほど振り続けているのか、自分でも分からない。
額から汗が流れ落ちる。
肩で息をしながらも、腕は止まらない。
踏み込む。
振る。
戻る。
もう一度。
繰り返す。
足の裏が重い。
踏み込みが浅い。
体が思うように前へ出ない。
それが、自分でも嫌になるほど分かってしまう。
昼間の光景が何度も脳裏によみがえる。
剣心の竹刀が喉元で止まった瞬間。
あと半歩届かなかった間合い。
押さえ込まれた竹刀。
崩された体勢。
「違う」
小さく漏れる。
今のじゃない。
もう一度。
踏み込む。
竹刀を振り下ろす。
風だけが鳴る。
「違う…」
もっと速かった。
あの時は京都で命を懸けて戦っていた時は、考えるより先に体が動いていた。
相手が動く前に踏み込めた。
気配だけで刃を合わせられた。
「何でだよ…」
呼吸が荒れる。
肺が焼ける。
それでも止めない。
止まれば認めることになる。
今の自分が、あの頃より遅くなっていることを。
畳へ汗が落ちる。
一滴。
また一滴。
同じ場所へ染みを作っていく。
何度も同じ踏み込みを繰り返す。
同じ角度。
同じ間合い。
あの日の動きを体へ思い出させるように。
だが返ってくるのは形だけだった。
速さがない。
鋭さがない。
「くそっ!」
感情のままに振り抜いた竹刀がわずかに軌道を外す。
体勢が崩れる。
すぐ踏み直す。
また振る。
何本振ったのか。
何刻過ぎたのか。
そんなことはどうでもよかった。
油皿の火だけが少しずつ小さくなっている。
握った掌の感覚が薄い。
手拭いは汗で湿り、ところどころ赤く色を変えていた。
汗なのか。
血なのか。
もう分からない。
構わず竹刀を握り締める。
もう一度。
踏み込む。
シュッ!!
その瞬間だった。
指先から力が抜ける。
竹刀が手の中を滑った。
コトン…コロコロ…。
竹刀が畳を転がり、静かな音を残す。
斗亜の動きが止まった。
「…っ」
震える右手を見つめる。
握ろうとしても、指先に力が集まらない。
小さく震えるだけ。