第39章 【第三十四話】約束を守るために
扉を抜けてから、しばらく誰も口を開かなかった。
背後で閉じた扉の向こうには、クロウリーが残っている。
その事実だけが、重く全員の背中にのしかかっていた。
リナリーは何度も振り返ろうとした。
そのたびに、アレンとティファが左右から支え直す。
「……進みましょう」
ティファが、掠れた声で言った。
自分に言い聞かせるような声だった。
「クロウリーが、信じてくれたんだもの」
ラビは何も言わなかった。
ただ、血の滲む口元を拭い、鉄槌を握り直したまま前を見る。
誰も納得などしていない。
それでも、立ち止まることだけは許されなかった。
方舟の内部は、崩壊の音に満ちていた。
遠くで、何か巨大なものが軋む。
天井から細かな砂塵が降り、白い回廊の輪郭が時折、蜃気楼みたいに揺らいでは戻る。
残された時間は、もう二時間もない。
先へ進むために、自ら残った仲間がいる。
その覚悟を無駄にしないためにも、アレンたちはロードとティキのもとへ辿り着かなければならない。
ティファも、いつでも白銀のレイピアを顕現できるよう、喉元の鼓動へ意識を澄ませながら足を進めていた。
胸の奥に残る不安を、今は見ないふりをする。
湖畔の町で出会った、白い髪の男。
――魂を送る歌は、いつか歌う者自身も削る。
ヴェインが残した言葉は、あれからずっと、耳の奥へ冷たく沈んでいた。
それに、ティキもジャスデビも、ヴェインの存在を知っていた。
あの男は、やはりノアの側と繋がっているのかもしれない。
湖畔で残された言葉も、クロスの薬莢も、本当に手掛かりだったのか。
それとも、自分を揺さぶるための材料だったのか。
考えかけて、ティファは小さく息を吸った。
今は、迷っている場合ではない。
師匠を見つけること。
方舟の崩壊を止めること。
仲間たちと、生きて戻ること。
それだけを見ていなければならない。