第4章 【第三話】檻と家のはじまり
インドを発ってから、幾日もの旅を重ねた。
汽船と汽車を乗り継ぎ、ようやく辿り着いた先で。
黒の教団本部の重厚な石門をくぐった瞬間、空気が変わった。
インドの肌へまとわりつくような熱気とは違う。
湿り気を含んだ冷たい風が、旅の埃を纏った頬を撫でていく。
見上げれば、空へ届きそうなほど高く聳える石造りの建物。
黒く重たい壁。
無数の窓。
ここが、黒の教団。
今日から私が、エクソシストとして生きる場所。
私は、胸元まで持ち上げた手をそっと握り締めた。
鞄の中には、母の形見である銀の髪飾りが入っている。
その隣には、インドを発つ朝、アレンが渡してくれた小さな銀色のボタン。
――立ち止まらないで。私も、先で待ってるから。
そう言ったのは私の方なのに、いざ本当に一人になってみれば、胸の奥には頼りない空白が残っていた。
師匠は、きっと今頃いつものように不機嫌な顔で煙草を吸っている。
アレンは、今日も修練に励んでいるのだろうか。
もしかすると、また師匠に怒鳴られているかもしれない。
そんな二人の顔が、脳裏をかすめる。
けれど、私は小さく息を吸い、前を向いた。
いつまでも師匠の背中だけを追ってはいられない。
アレンに先で待つと言った以上、私自身がここで立たなければならない。