第20章 【第十九話】もう譲れない
「けどさ」
低い声が、静かな病室へ落ちる。
「お前があんな顔するくらいなら、もう二度と言わねぇ」
呼吸が止まる。
ラビの声は、驚くほど真剣だった。
「……そんな顔されたら、オレまで苦しくなるさ」
低く掠れた声が、静かな病室へ沈む。
私は息を呑んだまま動けなかった。
頬へ触れているラビの指先が熱い。
逃げなきゃ、と思うのに。
身体が言うことを聞かなかった。
ラビはじっと私を見つめている。
その翠の瞳には、もういつもの軽さがない。
ただ真っ直ぐで――だからこそ怖かった。
「……ティファ」
名前を呼ばれる。
それだけで胸が痛い。
私は耐え切れなくなって視線を逸らした。
「……怖いの」
掠れた声が零れる。
ラビの指がぴくりと揺れた。
「何が?」
私は小さく息を吐く。
窓の外では雪が静かに降っていた。
「クロウリー達を見たばかりだからかもしれない」
ゆっくり言葉を探す。
「愛して、執着して……壊れて」
胸の奥がざらつく。
「もし私達も、ああなったらって思ったら……」
そこまで言って、自分で何を口走ったのか気付く。
――私達。
かあっと顔が熱くなった。
だがラビは笑わない。
その代わり、ほんの少しだけ目を細める。
「……私達、ね」
低い声。
その響きだけで心臓が跳ねた。