第19章 【第十八話】偽物じゃなかった愛~クロウリー編③
その瞬間。
エリアーデの表情が、完全に崩れた。
恐怖。
焦燥。
そして、隠し通してきたものを奪われた怒り。
全てが、紅い瞳の奥へ滲んでいる。
クロウリーは床へ崩れたまま、震える瞳で彼女を見上げていた。
「エ……エリアーデ……」
理解が追い付かないのだろう。
愛しいはずの存在。
唯一、自分を受け入れてくれた存在。
その身体の奥で、誰かの魂が苦しみ続けている。
その時だった。
ラビが鉄槌を肩へ担ぎ直しながら、はっきりと言い放った。
「クロちゃん、その姉ちゃんはAKUMAさ!」
崩れた部屋へ、声が響く。
「説明したろ! さっき!」
ラビがエリアーデを指差した。
「アンタとオレらの敵!」
クロウリーの身体が、びくりと震える。
「て……敵……?」
掠れた声。
彼は狼狽えながら、再びエリアーデを見る。
「エリアーデ……?」
赤い瞳が揺れていた。
「お前は……何か……知っているのか……?」
震える声。
「私は……私は……?」
自分が何なのか。
なぜ血を欲するのか。
なぜ村人達に怯えられていたのか。
クロウリー自身も、ずっと分からないままだったのだ。
私はその姿を見つめながら、静かに息を吐いた。
「……怖かったのね。ずっと」
クロウリーが、はっと顔を上げる。
私は痛む肩を押さえながら、それでも彼から目を逸らさなかった。
「化け物だって怯えられて、嫌われて……それでも、エリアーデだけは傍にいてくれた」
胸の奥で、『ニルヴァーナ』が鈍く震える。
「だから、信じたかったのよね」
クロウリーの瞳が揺れた。