第3章 【第二話】次へ繋ぐ手
それから、いくつもの季節が巡った。
私たちは師匠に連れられ、幾つもの国と街を渡り歩いた。
吹雪の中を歩く日もあれば、雨に濡れた石畳の上で眠る夜もあった。
そして辿り着いたインドでは、ねっとりとした熱気が、慣れない肌を容赦なく灼いた。
師匠が残すものといえば、山のような借金の受領書と、酒の匂いが染みついた不機嫌な背中ばかりだった。
理不尽で。
粗雑で。
容赦がない。
それでも決して、私たちを見捨てることだけはしなかった。
そんな男のもとで、私たちは泥を這うような日々を繰り返していた。
アレンは、少しずつ変わっていった。
初めの頃は、私の傍へ立つだけで精一杯だった少年が、やがて自分の足で立ち、師匠の苛烈な修練にも食らいつくようになる。
マナを思わせる柔らかな口調。
人を安心させる微笑み。
けれど、その奥に抱えている痛みが消えたわけではないことを、私は知っていた。
左手を見るたび、一瞬だけ瞳が曇る。
左目に映る魂の姿に、夜中に息を詰まらせることもあった。
それでも彼は、もう何も感じないふりをしなかった。
苦しいなら、苦しいまま。
怖いなら、怖いまま。
それでも、前へ進もうとしていた。
私自身も、歌だけで戦場を生き抜けるわけではなかった。
「歌う前に喉を潰されたら終わりだろうが」
そう言って師匠が私に課したのは、ニルヴァーナの光を、魂を送るためだけではなく、戦うための“刃”として顕現させる訓練だった。